JR紀勢本線の新宮~白浜間で、特急「くろしお」を1カ月間何度でも利用できる「紀南くろしお乗り放題特急券」。その購入費を5,000円補助する制度について、2026年4月から9月末までの半年間で、利用実績がわずか3件にとどまったことが分かりました。
10月8日付の紀伊民報が報じたもので、10月7日に新宮市役所で開かれた「紀勢本線活性化促進協議会新宮白浜区間部会」の会議で明らかになりました。
この補助制度は、利用者が少ない新宮~白浜間の鉄道利用を促進し、地域の移動手段を将来にわたって維持することを目的としています。
なぜ利用が伸びていないのでしょうか。制度の内容やこれまでの取り組みを整理するとともに、紀南地域の公共交通が抱える課題についても紹介します。
乗り放題特急券の購入補助、半年間でわずか3件
紀伊民報の報道によると、2026年10月7日に新宮市役所で開かれた「紀勢本線活性化促進協議会新宮白浜区間部会」の会議で、乗り放題特急券の購入補助制度の利用状況が報告されました。
同制度は、17,000円の乗り放題特急券を購入した人に5,000円を補助し、実質12,000円で利用できるようにするものです。
しかし、4月の制度開始から9月末までの補助利用実績は3件で、補助金の支出額は合計15,000円にとどまっています。
当初の予算は240件分の120万円でしたが、9月末時点で237件分に当たる118万5,000円が残っている状況です。
予算上の件数に対する利用率は、わずか1.25%となります。
なお、今回明らかになったのは、あくまで補助金の利用実績です。乗り放題特急券そのものの販売枚数が3枚だったという意味ではありません。
「紀南くろしお乗り放題特急券」とは?
「紀南くろしお乗り放題特急券」は、JR西日本が2026年4月から販売している、1カ月定額制の特急券です。
新宮~白浜間を走る特急「くろしお」に、対象月の間、回数制限なく乗車できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象区間 | 新宮駅~白浜駅間 |
| 販売価格 | 17,000円 |
| 購入補助額 | 5,000円 |
| 補助後の実質負担 | 12,000円 |
| 有効期間 | 毎月1日~末日 |
| 利用回数 | 制限なし |
| 対象座席 | 特急くろしお2号車の指定範囲の空席 |
| 販売駅 | 新宮・紀伊勝浦・串本・白浜 |
| 販売座席数 | 1カ月当たり40席 |
| 利用期限 | 2027年2月28日 |
ただし、乗り放題になるのは特急料金の部分だけで、乗車には別途、乗車券が必要です。
また、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など、一部利用できない期間も設けられています。
5,000円の補助を受けるには、特急券の写しや領収書などの必要書類を用意し、事業窓口となっている串本町へ申請する必要があります。串本町のホームページからオンライン申請することも可能です。
補助制度の目的は、JR紀勢本線の維持と利用促進
今回の補助制度は、単に住民の交通費を安くするための取り組みではありません。
最大の目的は、新宮~白浜間の鉄道利用者を増やし、地域の移動手段として維持していくことです。
JR紀勢本線の新宮~白浜間は、利用者の減少などによって厳しい経営状況が続いており、沿線自治体や和歌山県、JR西日本などが協力して利用促進に取り組んでいます。
その中心となっているのが「紀勢本線活性化促進協議会新宮白浜区間部会」です。
同部会は、沿線市町村や和歌山県、JR西日本和歌山支社、和歌山大学などで構成され、鉄道の利用促進に向けたさまざまな施策を進めています。
特急「くろしお」の増便実証実験と連動
新宮~白浜間では、2025年11月から2027年2月まで、特急「くろしお」の増便実証実験が行われています。
月曜日から木曜日に1往復を増便し、従来の5往復から6往復とする取り組みです。
乗り放題特急券と購入補助制度は、この増便実証実験の効果を高めるために導入されました。
列車の本数を増やすだけでなく、料金面でも利用しやすくすることで、通勤・通学などの日常的な鉄道利用につなげようという狙いがあります。
乗り放題特急券以外にも利用促進策を実施
新宮白浜区間部会では、乗り放題特急券の購入補助以外にも、鉄道利用を増やすための取り組みを実施しています。
4駅を巡る「くろしお一択デジタルスタンプラリー」
2026年5月18日から11月末まで、「くろしお一択デジタルスタンプラリー」が実施されています。
対象となるのは、白浜駅・串本駅・紀伊勝浦駅・新宮駅の4駅です。
このうち2駅以上を巡り、駅に掲示されたポスターの二次元コードをスマートフォンなどで読み取って応募すると、新宮市内で利用できるデジタル商品券「熊野新宮e街ギフト」10,000円分が、抽選で50人に当たります。
巡る駅数が増えるほど当選確率が高くなる仕組みですが、2駅だけを巡る場合は一部組み合わせに制限があります。
この事業は白浜町が窓口となっています。
校外学習やスポーツ合宿などの鉄道利用も支援
同部会では、学生団体を対象とした鉄道利用の支援も継続しています。
対象となるのは、校外学習や教育旅行、スポーツ合宿などを実施する学生団体です。
団体割引を適用した後の新宮~白浜間の運賃に相当する金額を全額補助することで、教育活動などでの鉄道利用を後押ししています。
通勤・通学だけでなく、学校行事や団体活動など、幅広い場面で鉄道を利用してもらうための取り組みです。
なぜ利用が伸びない?考えられる4つの課題
今回の報道では、JR西日本和歌山支社の富澤五月支社長が、制度の周知が十分ではなかった可能性に言及しています。
一方で、鉄道が日常的な移動手段として選ばれていない現状についても、厳しく受け止めていると説明しました。
実際に利用が伸びていない理由は明らかになっていませんが、制度の内容や紀南地域の交通事情からは、いくつかの課題が考えられます。
① 制度そのものが十分に知られていない可能性
乗り放題特急券の購入補助制度があることを、今回のニュースで初めて知ったという方もいるかもしれません。
特に、普段から自家用車を利用している人は、JRの割引商品や自治体の補助制度を調べる機会が少ないことも考えられます。
また、5,000円の補助金は購入時に自動で値引きされるものではなく、購入後に別途申請が必要です。
制度を知ってもらうための情報発信に加え、申請方法の分かりやすさも重要になりそうです。
② 通勤・通学に適したダイヤになっているか
乗り放題特急券は、通勤・通学などの日常的な利用を想定しています。
しかし、料金が安くなっても、列車の発着時刻が勤務先や学校の始業・終業時刻に合わなければ利用は難しくなります。
例えば、新宮方面へ通勤する場合、朝の始業時間までに到着できる列車があるかどうかが重要です。
また、帰宅する時間帯に利用できる列車がなければ、往復での利用も難しくなります。
料金だけでなく、日常生活に合った運行ダイヤになっているかという点も、利用促進を考えるうえで欠かせません。
③ 乗車券が別途必要で、利用頻度によっては割高に
購入補助を利用すれば、17,000円の乗り放題特急券を実質12,000円で購入できます。
ただし、通常の乗車運賃は別途必要です。
そのため、月に数回程度しか特急を利用しない人にとっては、必ずしもお得になるとは限りません。
一方、毎日の通勤などで頻繁に特急を利用する人にとっては、特急料金の負担を抑えられるメリットがあります。
利用する区間や回数によってお得になるかどうかが変わるため、購入前に通常の料金と比較する必要があります。
④ 自家用車との使い勝手の違い
新宮市を含む紀南地域では、自家用車が日常の移動手段として広く利用されています。
自家用車なら、自宅から目的地まで直接移動でき、列車の発車時刻に合わせる必要もありません。
一方、鉄道の場合は駅までの移動に加え、到着駅から勤務先や学校、商業施設などへの移動も考える必要があります。
また、高速道路の整備が進むなかで、自家用車と鉄道を比較する際の条件も変わってきています。
鉄道利用を増やすには、運賃や特急料金だけでなく、運行本数や所要時間、駅からの交通手段なども含めて考える必要がありそうです。
今後は鉄道だけでなく、バスやタクシーも含めて検討へ
今回の会議では、乗り放題特急券の利用状況だけでなく、紀南地域の公共交通のあり方についても議論されました。
和歌山県は、鉄道を軸とした紀南地域の公共交通体系について、法律に基づいて設置された「和歌山県地域公共交通活性化協議会」で検討することを提案し、承認されました。
2027年度からは、鉄道だけでなく、路線バスやタクシーなども含めた将来の公共交通について、関係者間で議論する場を設ける方針です。
これまでのように鉄道単独の利用促進を考えるだけでなく、駅から目的地までの移動も含め、地域全体の交通を考えていくことになります。
なお、新宮白浜区間部会は今後も存続し、引き続き鉄道の利用促進施策に取り組む予定です。
乗り放題特急券の購入補助は2027年2月まで
紀南くろしお乗り放題特急券は、2027年2月分まで利用できる予定です。
購入費補助を利用したい場合は、乗り放題特急券を購入したうえで、串本町に申請する必要があります。
補助対象となるのは、自身の通勤・通学や日常の移動などのために特急券を購入し、利用した人です。
申請には特急券の写しや領収書などが必要で、オンライン申請にも対応しています。
制度の詳細や申請方法については、各自治体の公式案内をご確認ください。
また、新宮白浜区間部会の事業全般については、新宮市企画調整課(0735-23-3339)で問い合わせを受け付けています。
紀勢本線の利用促進、今後の取り組みに注目
今回明らかになった乗り放題特急券の購入補助実績は、半年間でわずか3件という厳しい結果でした。
ただし、この数字だけで増便実証実験全体の成果を判断することはできません。乗り放題特急券そのものの販売状況や、増便によって実際にどれだけ利用者が増えたのかも確認する必要があります。
また、鉄道の利用促進には、制度の周知だけでなく、通勤・通学に適したダイヤや料金設定、自家用車との使い勝手の違いなど、さまざまな課題が考えられます。
鉄道を将来にわたって維持していくためには、利用者を増やす取り組みに加え、地域住民の生活に合った交通手段を確保することも重要です。
2027年度からは、バスやタクシーを含めた公共交通体系の検討も始まる予定となっています。
新宮~白浜間の鉄道が今後どのような役割を担っていくのか、引き続き注目したいところです。
参照元:新宮市 紀勢本線活性化協議会新宮白浜区間部会における取り組みについて、紀伊民報 実質1万2千円に 利用促進へ購入補助、乗り放題特急券、JR新宮-白浜、和歌山



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